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2020.06.12 社会保障・平和
だれもが安心してくらせる高齢期をめざして

愛媛医療生協の学識理事であり、人権としての社会保障の観点から、社会保障法学を研究されている愛媛大学教授の鈴木靜先生に寄稿して頂きました。先生は、2013年の史上最大の生活保護基準引き下げに対し、違憲訴訟を提起し裁判を闘う『いのちのとりで裁判愛媛アクション』にも精力的に参加されています。

毎年のように年金は引き下げられ、一方で医療保険料や介護保険料は上がるばかり。今年には消費税も10%になるというし。日々の節約をかさねているけど、もう限界…。
高齢者にかぎらず、若い世帯からも生活の基盤が切りくずされる悲鳴があがっています。ひどい政治に、誰もが怒っていることと思います。しかし、あいつぐ社会保障の改悪に、だんだんとあきらめが強くなってきているのではありませんか。
一番悪いのは、あきらめです。政府は、社会保障制度の改悪に改悪を重ね、国民の声をあげる気力をなくさせることを、ねらってきています。国民が「どうせ変わらない」「声をあげても無駄だ」と思うように、しむけてきています。そうなったら政府の思うつぼです。誰も反対しないなら、いつでも戦争ができる国になってしまいます。大事なことは、あきらめないことです。

すべての人たちの国づくり
昨年11月、私は、南アフリカ共和国を訪問しました。南アフリカ共和国といえば、ノーベル平和賞を受賞したネルソン・マンデラが有名です。マンデラをはじめアフリカ人(以前は「黒人」と呼ばれていました)は人権獲得のたたかいによって、人種差別であるアパルトヘイト制度を廃止させました。そして、アフリカ人だけでなく「すべての人たちの」国づくりを開始した国です。マンデラは、新たな南アフリカ共和国の初代大統領でした。
しかし、現実は厳しく、そう簡単に社会は変わりませんでした。白人優位な状況はなくなりませんでしたし、貧富の格差が大きくなりそのため犯罪が多発しています。そんななかでも、私が出会った誰もが明るく大きな声で笑いながら、この国を良くしていきたいと話してくれました。まさに南アフリカ共和国は、たたかい続けた人たちがつくった国でしたし、今もたたかい続けている国でした。
皆さんのなかには、マンデラのような政治家が日本にもいたら…と、思う人もいるかもしれません。しかし、マンデラが27年もの間、政治犯として収容されていた事実を忘れてはいけません。目の前にマンデラがいなくても、人々はあきらめませんでした。市井の、ごくごく普通のたたかい続けたアフリカ人にこそ、私は尊敬の念をもちました。

あきらめないこと
ある瞬間や一時だけ怒ることは誰にでもできますが、あきらめないことは理性と知性がなければできません。声をあげ続けることも、忍耐がなければできません。私たちも、あきらめずに、だれもが安心してくらせる高齢期をめざしましょう。
最後に、マンデラの言葉を紹介します。
「貧困の克服は、慈善や恩恵の問題ではない。正義の活動である。尊厳と人間にふさわしい十分な生活への権利、すなわち基本的人権の保障である」。そして、「たたかいは、私の人生。自由のために、生命つきるまでたたかい続ける」。

(鈴木 靜(学識理事・愛媛大学))